賃貸住宅のトラブルの4割を占めるのが「原状回復」
2023年に公表された全国の消費生活センター等に寄せられた賃貸住宅のトラブル相談の内訳では、「原状回復」に関する相談が一番多くなっています。
賃貸住宅関連の相談は、毎年3万件以上寄せられているとのことですが、そのうち、約4割に当たる1万3,000~1万4,000件程度が、「原状回復」に関する相談です。
建物の賃貸借契約は長期間にわたるため、入居中に傷つけたものや汚れたものを「原状回復」する際に、借主と貸主のどちらが負担しなければならないのか、はっきりせずに、双方でトラブルに発展するケースが多く存在します。
「原状回復」のトラブルによって、入居率にも影響!?
建物賃貸借契約も、他の法令に反しないのであれば、当事者同士で締結した契約内容が優先されます。
しかし、借主との間で交わす建物賃貸借契約が、一方的に貸主に有利な内容で、借主に不利な「原状回復」の取り決めをすることは得策とはいえません。
例えば、「借主は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を含む。)がある場合において、賃貸借契約の終了時に、その損傷を原状に復する義務を負う。」のように、借主の義務を一方的に重くするような条項は、消費者保護の観点から、消費者契約法の規定により無効とされる可能性が高くなります。
それどころか、借主の無知に付け込んで、借主に不利な契約を一方的に締結したなどと評判が出てしまえば、トラブルの原因となるばかりではなく、SNS上などで悪い情報が広まってしまい、その物件の入居率を悪化させてしまうというリスクにもつながります。
そこで、賃貸住宅のオーナーは、「原状回復ガイドライン」の概要はしっかりと把握した上で、どのようなケースの場合に、借主に「原状回復」の費用を負担してもらえるのか、一般的な判断の基準を押さえていくことが大切です。
「原状回復ガイドライン」とは
1998年に国土交通省より「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が公表され、その後、何度かの追加や改訂が行われ、現在のものとなっています。
「原状回復ガイドライン」の一番のポイントは、「原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と、定義されたことです。
要は、「普通に住んで自然にできる汚れや損傷は、入居者の責任ではありません」ということが明確に定義されたということです。
また、2020年4月1日には、「原状回復」にまつわる民法が改正されました。
これまでの「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には、通常損耗(賃借物の通常の使用収益によって生じた損耗)及び経年変化はその対象に含まれていないと記載がされていましたが、民法には明文化されていませんでした。
今回の民法の改正によって、「借主の落ち度がない部分の修復については、原状回復義務を負う必要はない」ことが新たに明文化されたことによって、「原状回復ガイドライン」に、法的なお墨付きがついたわけです。
「原状回復ガイドライン」の考え方のまとめ
「原状回復ガイドライン」の考え方は、「原状回復」とは、「借主が借りた当時の状態に戻すことではない」ということです。
「借主の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、借主の故意・過失、善管注意義務(社会通念上要求される程度の注意を払って使用する義務、日頃の清掃なども善管注意義務に含まれるとされます)、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」というのが「原状回復」だということです。
貸主として、その点の認識をしっかりと持ちながら賃貸住宅を経営していかなければなりません。
「原状回復ガイドライン」の具体例~貸主の負担とすべきもの~
以下の掲げるものは、一見すると、借主に負担を求めたいところですが、貸主の負担となるものです。
●通常の住まい方で発生するもの
①家具の設置による床・カーペットのへこみ
②テレビ・冷蔵庫などの後部壁面の電気ヤケ
③壁に貼ったポスターなどによるクロスの変色、日照などの自然現象によるクロス・畳の変色、フローリングの色落ち
④賃借人所有のエアコンの設置による壁のビス穴
⑤設備・機器の故障・使用不能(機器の寿命によるもの)
●建物の構造により発生するもの
①構造的な欠陥により発生した畳の変色、フローリングの色落ち、網入りガラスの亀裂
●次の入居者確保のために行うもの
①次の入居者を確保するために行う畳の裏返し・表替え、網戸の交換、浴槽・風呂釜などの取り換え、破損・紛失していない場合の鍵の取り換え
②フローリングのワックスがけ、台所・トイレの消毒、専門業者によるハウスクリーニング(入居者が通常の掃除を行っている場合)、エアコン内部の清掃
いかがでしょうか。
一昔前なら、借主の敷金から精算していた内容も「原状回復ガイドライン」においては、貸主負担とされています。
「原状回復ガイドライン」の具体例~借主の負担とできるもの~
●手入れを怠ったもの、用法違反、不注意によるもの、通常の使用とはいえないもの
①飲みこぼし等の手入れ不足によるカーペットのシミ、冷蔵庫下のサビを放置した床の汚損、引越作業等で生じた引っかきキズ、賃借人の不注意によるフローリングの色落ち
②日常の清掃を怠ったため付着した台所のスス・油、結露を放置して拡大したカビ・シミ、クーラーからの水漏れを賃借人が放置して発生した壁等の腐食、喫煙によるヤニ等でクロスが変色したり臭いが付着している場合
③重量物をかけるためにあけた壁等の釘穴・ビスで下地ボードの張替えが必要なもの、天井に直接付けた照明器具の跡、落書き等故意による毀損
④ペットにより柱等にキズが生じ、または臭いが付着している場合
⑤風呂・トイレ等の水垢、カビ等、日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損
⑥鍵の紛失または破損による取替え、戸建て住宅の庭に生い茂った雑草の除去
このように、借主の不注意や通常の使用をしていたら起こらないであろう汚れなどは、借主の負担とすることができます。
経過年数を差引く必要がある
しかし、「原状回復ガイドライン」においては、仮に、借主が故意又は過失によって建物を壊してしまったとしても、建物は年々古くなっていくので、その古くなった分を差し引かなければならないとされています。
経年変化・通常損耗分は、既に借主は家賃として支払っているものだと解釈されます。
「原状回復ガイドライン」では、借主の負担については、建物や設備などの経過年数を考慮して、年数が多いほど、借主の負担割を減少させるようにしなければならないとされています。
経過年数による減価割合については、本来は個別に判断すべきですが、「ガイドライン」は、目安として、法人税法等による減価償却資産の考え方を採用することになっています。
以下、耐用年数の一例です。
■壁紙、クッションフロア、カーペット・・・6年
■エアコン、インターホン・・・6年
■洗面化粧台・・・15年
■畳表替、障子紙、襖紙・・・消耗品で経過年数は考慮しません
■フローリング・・・経過年数を考慮しません
■室内ドア・玄関ドア・扉・建具・・・建物本体の年数
経過年数の考慮が6年のカーペットであれば、3年で退去する場合は、入居者の負担は50%です。
このように入居時点を100%、経過年数が満了した時点を0%として、退去時の経過年数の比率から賃借人の負担率を割り出して負担額を算出することになります。
借主の権利が一層強くなっていく印象ですが、賃貸住宅のオーナーは、借主のとのトラブル防止のためにも、また、入居率を維持するためにも、「原状回復ガイドライン」を一読して、内容の把握に努めてください。
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